長浜市高月町で育てられている、極上メロン「和夏(わか)」は、「たかつきメロン」という地元のブランドを受け継いで作られました。
美しい網目と高い糖度を誇るこのメロンは、就労継続支援B型事業所の利用者さんたちとともに行う、丁寧で地道な手仕事によって生み出されています。
およそ500株が並ぶ広大なビニールハウスを管理するのは、藤本和夏子さん。実は農業経験ゼロだった藤本さんがメロン栽培に踏み切った背景には、祖父への尊敬と地域の農業が廃れていくことへの強い想いがありました。
今回は、藤本さんがメロン栽培を始めたストーリーと、試行錯誤しながら利用者さんとともにメロンを作り上げる支援の日々についてうかがいました。
| 株式会社ゴッパム代表/藤本 和夏子 株式会社ゴッパムの代表として農業経営を担いつつ、就労継続支援B型事業所「フォーユー」の職業指導員を務める。農業の担い手不足解消と、障害のある方のやりがい創出を目指し、利用者たちとともに高品質なメロン「和夏」を育てている。 |
農業経験ゼロから受け継いだ「たかつきメロン」の栽培

ーーまずは株式会社ゴッパムの事業について教えてください。
藤本:株式会社ゴッパムは、農業の法人として立ち上げ、障害のある方と一緒に農業を行う「農福連携」をメイン事業としています。
もともと中重という法人で、認知症のグループホームや就労継続支援B型事業所のフォーユーの福祉事業を行っていました。そして、別の会社として令和5年7月に農業法人のゴッパムが立ち上がったという経緯です。
就労継続支援B型事業所でのメインの作業に農業を選んだのは、農業業界の高齢化や担い手不足が進む中で、障害のある方がその担い手のひとつになれればと考えたからです。
私はゴッパムの代表として農業の経営や作物の準備、機械操作などを担いつつ、フォーユーの職業指導員として利用者さんに農作業を指導しています。
ーーメロン栽培はおじいさまから受け継いだそうですね。

藤本:実は、もともと農業を継ぐ気はまったくありませんでした。福祉や農業のことを学んできたわけではなかったので。
でも、大学で一度地元を離れ、戻ってきたら特産品として愛されていた「たかつきメロン」の組合が縮小し、農家が減っていたんです。
子どものころは、特産品として人気が高まっていたのに、それがなくなりかけている。高齢になった祖父もメロン栽培をやめると聞き、素直に「もったいない、寂しい」と感じました。ずっと祖父のことを尊敬していたというのもあり、農業の世界へ飛び込んだんです。
最初は言われるがまま水やりなどをしていましたが、5年経ってようやく点と点がつながり、自分のものになってきたように感じます。
今でも実際に手を動かしながら体で学び続けています。
甘くて美しいメロン「和夏」を支えるのは利用者さんとともに行う繊細な手仕事

ーーたかつきメロンの技術を受け継いで生み出した「和夏」は、一木一果を採用し1玉ずつ糖度を計測するなどこだわりがあるそうですね。
藤本:はい。「和夏」は1本のメロンの木から、たった1つの実だけを育てる一木一果で育てています。
1つの実にすべての栄養と甘さを集中させられるので、大きく育てることができるんです。
出荷前には1玉ずつ糖度を計測し、タグを付けています。糖度を平均で出すと「これは甘い」「これは甘くない」と、差が出やすくなります。和夏は糖度の基準値を超えているもののみ収穫するので、お客様が食べてガッカリしないようこだわっていますね。
タグ付けすることでお客様からも甘いかどうかがわかり、メロンの甘さと大きさを見ながら購入できるようにしています。
ーー就労継続支援B型事業所として利用者さんはどのような作業をされていますか?

藤本:メロン栽培では、ツルを這わせる「誘引」や、不要な芽を摘む「脇芽取り」などの繊細な作業をしてもらっています。
ただ、メロンの作業は繊細で難易度も高いんです。細かい作業が苦手な利用者さんもいるので、得意なことを分担して行っています。
たとえば、にんにくを抜いたり剥いたり、内職作業をしてもらったり。一人ひとりの個性や適性に合った作業を行っています。
また、メロンの時期以外のシーズンは、ほうれん草をメインに栽培しています。ほかにも、さつまいも・玉ねぎ・大豆・にんにくなど、たくさんの種類を作っているので、利用者さんができる作業でかつニーズがあるものを探っている状態です。
ーー利用者さんは一人ひとり障害も違えば、得意・不得意も異なるかと思います。支援において工夫されていることはありますか?

藤本:現在は一緒に現場に立ち、実践を通じて体で感覚を覚えてもらうようにしています。
実は、最初のころ写真に矢印を書いた丁寧なマニュアルを作ったのですが、誰も見ないという壁にぶつかったんです。字を読むこと自体が大変だったり、漢字がわからなかったりする方もいて。
写真を撮って視覚支援をしようにも、農作業において同じ形はひとつもありません。写真と実物で少しでも角度が違うと伝わりませんでした。
利用者さんにとっては、失敗を重ねながらでも自分の感覚や経験を通して、繰り返し取り組んでいくやり方のほうが合っているんだなと思ったんです。
ただ、農作物はあくまでお客様に売る商品。傷つけないよう丁寧に扱うことは口酸っぱく伝えています。利用者さんにはプロ意識や責任感をもってもらい、自立や就労支援につながるように考えています。
支援の難しさと向き合った先で見えた、自ら考えて行動する利用者さんたちの真剣な姿

ーーメロンづくりをされている利用者さんの日々の様子や表情について教えてください。
藤本:メロンの作業中は傷をつけないよう、みなさん集中して真剣な表情で取り組んでいます。「集中しなあかん!」と思ってくださっているみたいで。
大きく育ったメロンが収穫できたときや、良いものができたときはやっぱり表情が明るくなりますね。自分の仕事に自信や誇りをもってくれている姿を見ると、一緒にがんばってきて良かったなと感じます。
もともとは、私がやりたくて始めたメロン作りだったので、利用者さんに手伝ってもらうという感覚だったんです。
でも、今では利用者さんたちにとっても「お客様に届ける商品」として、真剣に向き合う大切な仕事になっています。
ーー利用者さんの成長を感じたり「伝わった!」と思ったりするときもあるのではないでしょうか。

藤本:最初は受け身だった利用者さんが、1年経って「去年は失敗したから、今年はこうしよう」と自ら考えて行動してくれたときには、大きな成長と喜びを感じます。
ミスが起きたとき、障害の特性によるものか、単にわからなかっただけかを見極めるのが難しいんです。
伝え方が悪かったこともあるかもしれない。
でも、利用者さんが失敗してしまったときは振り返りの時間を作ります。大きなミスとまでいかなくても、商品として収量が減ってしまうのは良くありません。責任感をもって作業する大切さを伝えています。
利用者さんの中には感情がなかなか表情に出ない方もいらっしゃるので、日々のコミュニケーションは手探りな部分もあります。でも、メロンの時期になると、みなさんの意識が「メロンづくり」へと一斉に向くんです。
養護学校への販売会を心待ちにしていたり、日々の作業の中で誇らしげな表情を見せてくれたり。そういう姿を見ると、これまでの支援が届いているんだな、うれしいなと思いますね。
もっと多くのお客様へ届けたい「和夏」の魅力と農福連携の広がり

ーー自然と向き合う農業において苦悩もたくさんあったかと思います。
藤本:過去(3年目ごろ)には、梅雨明けの急なカンカン照りで、ハウス内のメロンが全滅したことがあります。
大雨によってハウスが浸水し、根が傷んでしまったんですよ。表面に網目が入り、いよいよここから糖度が乗ってくるという勝負どころだっただけに、自然相手のどうにもならないもどかしさを痛感しましたね。
また、メロン以外に育てているほうれん草やさつまいもは、無農薬かつ農福連携という独自の付加価値をつけて販売しています。
ただ、無農薬栽培は本当に失敗も多くて……。たくさん植えても虫や病気にやられてしまい、ほんの少ししか収穫できなかったこともあります。
ーー収穫時の喜びはひとしおですね。今年の「和夏」の出来栄えはいかがでしょうか?

藤本:苦労をかけた分、それらを乗り越えて良いものができたときの収穫の喜びは大きく、来年へのモチベーションになりますね。
今年のメロンは今のところ順調です。きれいな網目が入ってきていて、ここからさらに糖度が上がっていく時期になります。
良くも悪くも、収穫の瞬間にこれまでの過程がすべて結果として表れるんです。決して手を抜いているわけではないのですが「あのときの作業が少し甘かったな」と気づかされることも。
もちろん自然相手なので天候や土質の影響も大きいですが、出来が良いときは「定植のタイミングが良かったのかな」「天候に恵まれたのかな」と答え合わせができます。
収穫はまさに、私たちの地道な作業と自然の力が合わさった集大成なんですよね。難しさでもありますが、この手応えも反省もすべて来年に活かして、次はさらに良いものを作っていきたいと思っています。
ーー最後に、株式会社ゴッパムとしての今後のビジョンを教えてください。
藤本:まずはおいしいものを作り続け、ファンになってくれるお客様を1人でも増やしていきたいですね。
地域のお客様から「農福連携のシールが貼ってあるから買う」「ここのメロンおいしいよね」と言ってくださるのが本当にありがたくて。
近隣農家から仕事の依頼を受けたり近くの小学校との交流があったり、地域とのつながりが生まれているので、この取り組みをもっと広めていきたいです。
最終的には、利用者さんや親御さんが、将来も慣れ親しんだ地元でずっと安心して暮らせる居場所であり続けたいと考えています。
株式会社ゴッパムでは、現在「和夏」を販売中です。
ご予約は、以下のGoogleフォームまたはInstagramよりご連絡ください。
作業者さんたちの誇りと愛情がたっぷり詰まった極上のメロンを、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか。
※受け取り場所:長浜市高月町横山298 株式会社ゴッパム事務所
編集後記
「メロンはあくまで商品。だからこそ品質に妥協は許されない。」
そんな農業経営者としての厳しい顔と、利用者さん一人ひとりを常に気にかけ、寄り添う支援者としての温かい顔が垣間見えた取材でした。
地元を愛し、特産品のメロンが減っていく寂しさから自ら栽培を受け継いだ藤本さん。農業の担い手不足や高齢化が進み、抗えない自然の脅威に悩まされながらも、利用者さんとともに土に触れ、収穫の喜びを分かち合う姿には、まっすぐで強い信念が感じられます。
「これからもおいしいものを作り続けたい。そして、利用者さんが慣れ親しんだこの地元で、安心して過ごしていける場所でありたい。」
そう語る藤本さんのひたむきな想いが詰まったメロンは、きっとこれからも長く、地域で愛され続けていくでしょう。
