のいろのいろ

長浜の養蜂家が語るーーおいしいハチミツに隠された過酷な自然と小さな命

ハチミツといえば、春の野原でミツバチがのんびりと蜜を集めているのどかな風景を想像する方が多いのではないでしょうか。

しかし、実際の現場は想像以上に過酷です。地球温暖化による猛暑や暖冬と寒の戻りに翻弄される冬、そして地域の農薬散布という厳しい自然に、ミツバチも養蜂家も立ち向かっています。

今回は、言葉をもたない小さな命と日々向き合う「のいろのいろ」の藤本裕和さんに、ハチミツの知られざるストーリーをうかがいました。

のいろのいろ/藤本 裕和
2023年より養蜂業としての届出を提出し養蜂をスタート。現在は別の本業をもちながら、早朝や週末の時間をフルに使い、数十万匹(24〜25群)の西洋ミツバチの小さな命に寄り添い、ほぼ1人でお世話している。

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命を尊ぶ環境づくりとミツバチへの細やかなお世話

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ーーまずは養蜂のきっかけと主な活動について詳しく教えてください。

藤本:元々は父親が手がけていたメロン栽培の受粉用にミツバチが必要で、娘が農業を継いだことをきっかけに、2022年頃からミツバチを飼い始めました。養蜂業として届出をしたのは2023年からです。

最初は養蜂業者から「種蜂」と呼ばれる元々の1群を購入し、それを自分たちで少しずつ分割して増やしていきました。

現在は24〜25群の西洋ミツバチにまで増え、数十万匹をほぼ1人でお世話しています。

ーー越冬や分蜂など非常に繊細なお世話をされていると拝見しました。

Instagramの発信では厳しい冬の寒さのなか、動けなくなった蜂を見つけては手の内で温めて巣箱に戻すなど、我が子のように手厚いケアをしている様子が発信されていました。

冬を乗り越え、蜂が活発に動く5月中旬から10月中旬にかけては、さらに緻密な管理が求められるのではないでしょうか。

藤本:この時期(取材当時5月)はほぼ毎日、朝から晩まで蜂を見ています。最低限やっているのは、毎日の様子をすべてメモにつけて、明日の段取りをまとめること。できるだけ無駄なく、効率よく作業を進めるようにしています。

定期的に巣箱を開けて内部を確認する内検も欠かせません。放置すれば蜜を集める力がガタ落ちしてしまう分蜂を防ぐだけでなく、ミツバチを脅かす見えない外敵の存在にもいち早く気づく必要があるからです。

養蜂において一番大事なことは「今すぐにやらなければいけないこと、早め早めに対応すべきことをきちんとやる」ですね。

ーーハチミツ作りにおいて、一番譲れないこだわりの部分はどこですか?

藤本:ミツバチは昆虫ですが、牛や豚などと同じ家畜として扱われるんです。私たちが飼育することでお世話をし、ミツバチは生活範囲を広げていきます。その代わりに彼らが集めた蜜をお裾分けしてもらう「互恵関係(パートナー)」にあると考えています。

命を尊重し、無用なストレスを与えない環境づくりが、最終的においしいハチミツの品質につながるんですよ。

食品としての衛生管理を徹底し、風味を飛ばさない「非加熱の生ハチミツ」にこだわっているからこそ、見えないところにも細心の注意を払っています。

おすすめの食べ方は、温めたプレーンスコーンに生のハチミツをたっぷりと乗せて味わうこと。贅沢な感じがしますし、生で食べるのが一番おいしいです。

人間の都合とミツバチにとっての過酷な現実

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ーー自然相手だからこその苦悩もあるのではないでしょうか。

藤本:夏場の蜂場は日除けがないカンカン照りです。すだれをかけても全く効きません。猛暑でミツバチが疲弊すると秋に群れが増えず、そのまま越冬して春になっても蜂が揃わないという厳しい現実があります。

ぜんぜん思い通りにならないので、あくまでもお世話をさせていただいているという姿勢です。

過去には、ミツバチヘギイタダニという1ミリ以下の小さなダニ被害に遭い、11群から一気に減ってしまい、廃業の危機に直面したこともありました。

「ちっちゃい命やけど、申し訳ないことした」と後悔するほど、自然と向き合うのは壮絶で過酷な闘いも多いですよ。

ーー近隣の農薬散布で蜂が犠牲になってしまったというお話もありました。そのときの率直な思いを聞かせてください。

藤本:夏には周辺の田んぼでカメムシ防除の農薬散布が行われます。昼間のドローン散布などで薬剤を浴びたミツバチが、巣箱の前で大量死してしまうんです。

本来、働き蜂は自身の異変を察知すると、巣への二次被害を防ぐためにあえて帰らず外で死を選ぶ習性をもっています。農薬の異変に気づかなければ巣へ帰ってきてから症状が現れ、結果的に巣箱の前で死んでしまいます。

群れを守る賢いミツバチたち。小さくてもそれぞれの生き様を全うしていることがわかります。

ーー健気に生きるミツバチですが、心が通じ合う瞬間はあるのですか?

藤本:あんまりないですね。普通に刺してきますし、めちゃくちゃ痛いです。それでも、過酷な環境を生き抜いたミツバチから巣箱の蜜を抜くときには「すまんのう」ってちょっと心が痛みますね。せっかく集めた蜜をもらうわけですから、かわいそうだなと感じます。

メディアや動画などで見かけるように素手で扱うことは絶対に無理で、心は通じ合わないと笑う藤本さん。しかし、気温の変化や農薬の被害に悩みながら、細やかなお世話を続けるのは、小さな命への愛情だと感じられます。

繊細なミツバチの小さな命に寄り添い続ける理由

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ーー心が折れそうになることもあるかと思いますが、それでも養蜂を続けられる理由は何でしょうか?

藤本:昔からハチミツをいろいろ食べてきたような方に「ここのが一番おいしかった」と言ってもらえると、本当にありがたいなと思います。全然関係のない遠い土地の方が口にしてくれて「また来年も買いに来るわ」「できたら教えてね」と。やっぱり何よりの励みになりますね。

食べた方にとっては何気なく口にした「おいしい」というたった一言かもしれません。

しかし、言葉の通じない小さな命と向き合い、自然の脅威に耐え抜いてきた藤本さんにとって、それは「やってよかった」と心から報われる最高の言葉なんですね。

ーー今後、ご自身の活動として新しく挑戦してみたいことはありますか?

藤本:ハチミツ単体で売るだけでなく、ケーキ屋さんなどの飲食店とコラボして、ハチミツを使ったスイーツを開発・提供していきたいですね。過去にはプリンを作ってもらったこともあるんです。

あと、糖度が低いハチミツを自然発酵させてつくる「ミード(蜂蜜酒)」という世界最古のお酒を、酒屋さんと協力して作ってみたいというロマンもあります。

地域のマルシェなどに出店し、地域の人々と直接つながりながらおいしいハチミツを届けていきたいです。

過酷な自然と向き合い、丁寧につくられたハチミツ。地域のパティシエや醸造家の手に渡ることで、新しい味わいが生まれますね。

ーー最後に、この地域の自然環境や農業が、どのようになっていってほしいと考えますか?

藤本:少なくとも蜂がいることで、ポリネーションの環境は良くなっているはずなんですよ。庭に植えてるブルーベリーの木が今年はよく実がなったなとか、今年はよくキュウリがなるなとか言われるところには、実はうちの蜂がひっそりと役に立ってるんです。

※ポリネーション(花粉交配):ミツバチが蜜を集めるために花から花へと飛び回る過程で、植物の受粉を手助けする

おいしいハチミツを生み出すだけでなく、地域の豊かな食卓を陰ながら支えていることを知ってほしいですね。

ミツバチと聞くと「刺される」「怖い」と警戒してしまう方が多いかもしれません。しかし、実は誰かの畑の野菜や果物をひっそりと実らせてくれています。

のいろのいろさんのハチミツはInstagramからご注文ください。

編集後記

「言葉は通じないし、自然相手じゃどうすることもできない。」

取材中、そんなもどかしさを口にしながらも、ミツバチを失ったときや蜜を採るときには「ごめんね」と申し訳なさそうに語る藤本さんの姿がとても印象的でした。

ハチミツは決して簡単にできるものではなく、過酷な自然環境と養蜂家さんの愛情によってつくられています。

お客さんからの「おいしかった」の一言を原動力とし、毎日ひたむきに命と向き合う藤本さんの姿に深く心を動かされた取材でした。